すべての人、特にプロダクトを設計する人にとって、絶対に守らなければならない「ルール」というものが存在しています。これまでそのルールが守られていない状況になんども直面してきましたが、どの場合も貴重な時間を無駄にしてしまうことになってしまっています。

この記事では、その「ルール」についての説明と、それがプロダクトやサービスのデザインに与えている影響について、組織のマネジメント、共同作業や、パフォーマンスの向上への影響なども合わせてご紹介していきたいと思います。

実はこのルールというのは「ミラーの法則」という心理学的な法則に則っています。ミラーの法則とは何かをご紹介するというよりは、その効果を体感していただき、より身をもってその効果を実感していただければと考えています。

エクササイズ

記事を読み進めていく前に、簡単なエクササイズに挑戦してみましょう。

ステップ1

まずはじめに、下記の説明をお読みください。

ペンと紙を用意してください。下記に20個の単語が並んだ画像が表示されているので、1分間できるだけ多くの単語を覚えてみてください。紙に書いたりして覚えるのではなく、記憶力だけを頼りに単語を覚えてください。覚えられたら、ステップ2へ進んでください。

では、下記の画像に表示されている単語を見て、1分以内にできるだけ多く記憶してください。

ステップ2

では、用意した紙とペンを使って、リストの中から覚えている単語を書き出してみてください。絶対にスクロールして確認してはいけません。もしスクロールして答えを見てしまったら、このエクササイズは台無しになってしまいます。

思いつくだけの単語を書くことができたら、スクロールして答えを確認してみましょう。

ほとんどの人が、5つから9つの単語を思い出すことができたはずです。これは一般的な記憶力の限界であり、これまでいくつもの実験がそれを実証しています。この記憶力の限界が日々の業務に影響していることは間違いなく、プロダクトの設計にも大きな影響を与えています。短期間だけ、7つの情報であれば「頭の中に」保存することができるこの能力は、ミラーの法則として知られています。

ミラーの法則・マジックナンバー

1965年に心理学で最も引用された論文の1つが「マジカルナンバー7±2:情報処理の限界」という論文です。1956年に認知心理学者でプリンストン大学のジョージ・A・ミラーによって発表されました。この論文の要点は、「一般的な人間が作業メモリ(短期記憶に使う脳の領域)に保持できるのは7±2個の情報」というものであり、これがミラーの法則と呼ばれているものです。

Wikipediaでは、次のように説明されています。

「The Magical number seven, plus or minus two: some limits on our capacity for processing information」という論文の中で、一度聞いただけで直後に再生するような場合、日常的なことを対象にする限り記憶容量は7個前後になるということを示した。この7個というのは情報量ではなく意味を持った「かたまり(チャンク)」の数のことで、数字のような情報量的に小さなものも、人の名前のように情報量的に大きな物も同じ程度、7個(個人差により±2の変動がある)しか覚えられないということを発表した。
引用元:Wikipedia

色々と頭を使わなければならない作業を行っている時でも、人間は7つまでの情報であれば保持しておくことができます。これは非常に重要なことで、何か作業を行っているときに頭が別の事を考えられるということを示しています。

ミラーの法則の背景にある主要な概念の1つは、様々な情報の塊である「チャンク」という考え方です。例えば、エンピツという言葉がありますが、これは4つの文字が1つのチャンクとしてまとまることによって、「鉛筆」という1つのものを表しています。もしこの4つの文字の順番がバラバラになったら、塊としての意味を持たなくなってしまいます。バラバラの要素を「チャンク」としてまとめることは、UXにおいて非常に重要なアイデアです。

ルール

情報を並べて表示する場合は、絶対に9つ以下に減らし、できれば5つ以下に整理すること。

UIデザインにおいて、様々な情報を追加すれば追加するほど、情報を整理して「作業」を行うことが難しくなります。複雑なUIであればあるほど簡単に扱うことはできず、作業を長期記憶に定着させるための練習を行うか、習慣化させなければスムーズに操作することはできないでしょう。

Facebook、Google、WordPressなどの大きなブランドがこのルールを破っているのを何度も見てきましたが、情報を5つ以下に整理するこのルールは、「ミニマリズム」との相性も抜群です。

プロダクトの機能を増やせば増やすほど、使用している時に様々なことを頭の中で考える必要が出てきてしまうため、必然的に使いづらいプロダクトになってしまいます。そのため、優れた情報設計を行うということがとても重要です。

また、ミラーの法則はデザインにおける適切な計画性が重要だということにもつながります。プロダクトに機能を追加すると、すでに出来上がっているインターフェースを修正しなければなりません。インターフェースを変更する時に0から再設計してデザインを行っていると膨大な時間とリソースが必要になってしまいます。そのため、デザイナーはサービスの機能追加などを意識して、しっかりと計画を立てた上でデザインを行うことが必要になります。

ミラーの法則に関係する象徴的な現象は、もう一つあります。初頭効果や親近効果という心理学の用語がありますが、要素を並べて配置した時に、真ん中に配置されている要素ではなくて最初と最後に配置されているものの方が記憶に残りやすいということが知られています。これは、「系列位置効果」と呼ばれている法則です。

この理論は、ビジネスとデザインに大きなヒントを与えています。最初と最後に見たものを人々が覚えているのだとしたら、デザインにどのように活かすことができるでしょうか。重要な事項はリストの最初か最後に配置した方がいいでしょう。どのようにすれば、ポジティブな内容をよりしっかり覚えてもらい、ネガティブな内容は和らげることができるでしょうか。

このようなポイントは、UXデザイナーがプロダクトのデザインや開発時にしっかりと考慮しておくべきでしょう。

ミラーの法則は、複雑なタスクをこなす場合も含めて、あなたの人生のあらゆる場面で取り入れることができます。

情報を並べる場合は9個を超えないようにし、適切に「チャンク」としてまとめることによって、あなたの脳は情報がどこにあるのかをよりしっかりと覚えておくことができるので、簡単に思い出したり見つけ出したりすることができるようにあんります。情報のリストが多くなりすぎると、それらをマッピングすることが難しくなり、探し出すのが大変になってしまいます。

ミラーの法則を守ることによって、リーン開発、テクノロジー、UXの近年の動向と重ねてみても非常に重要なことが分かります。ユーザーは何かを購入する前に一度試してみたいと考えています。彼らは体験期間の最初、もしくは最後にそのプロダクトの良さを感じることがなければ購入することはありません。そのため、情報設計をしっかりと計画し、検討してから開発を進める必要があります。

組織におけるミラーの法則

現代では、指数関数的に情報量が増え続けています。きちんと整理したり、削除をしていかないと、生き残っていくために重要な事を行うための能力が低下してしまいます。そのため、あなたの人生への投資に対する高いリターンを得られない商品やサービスをあえて、取り除いていくことが重要になります。

これは、結果全体の80%は、20%の投資によって作り出されるものだというパレートの法則に則っています。あなたは、効率を重視してしまうゆえに、1日にたくさんの仕事をしすぎていませんか?もしくは、仕事にたくさんのツールを使いすぎていませんか?チームのメンバーは多すぎたりはしませんか?新入社員にたくさん情報を与えすぎて混乱させていませんか?

ミラーの法則は、人間の短期記憶に関する情報量の限界について説明されていて、情報を与えすぎると考えることを停止してしまったり、パフォーマンスに悪影響を及ぼすことが説明されています。企業は、顧客や従業員がより分かりやすく情報を消化するために、きちんと整理して伝えるための方法を探すべきです。これは、情報の過負荷を引き起こしている余計なツールやアプリケーションを排除したり、チームのメンバーを減らしたり、ミラーの法則に基づいて組織を編成することによって解決できるかもしれません。

これは、心理学者のMihaly Csikszentmihalyiによって有名になった「フロー理論」の考え方にも同様に当てはまります。「フロー理論」とは、ある一定のレベルを超えると人間は何かを得ても幸福度は変わらなくなる(むしろ下がる)という理論です。

もしあなたの職場でもっと多くのツールを使えるようにした場合、従業員のパフォーマンスは向上するとおもいますか?必要以上のものを提供されてしまうと、おそらく気が散ってしまって、パフォーマンスは低下してしまうでしょう。

ミラーの法則は、これが重要であることを何度も証明してきています。タスクを完了させるためには、多くを提供するのではなく、少なくする方が良いこともあります。

まとめ

ミラーの法則を日々の業務に活かすためには、まずPCにインストールされているSlackなどのチャットツールの通知をオフにすることから始めましょう。机の上に散らかっている余計なものはすべてしまうようにして、バラバラに管理している受信ボックスはなるべく1つにまとめるようにすべきです。

情報をしっかりと整理することによって、日々の業務が効率化されるだけでなく、組織におけるマネジメントが上手くいったり、優れたプロダクトを生み出すことにも繋がります。

明日からミラーの法則を意識してデザイン制作やプロダクト開発を行うように心がけてみてください。

この記事は、Jeff Davidsonに許可をいただき、「The Most Important Rule in UX Design that Everyone Breaks」を翻訳転載しています。